いろたし日記

ニューヨークの色

NY在住者による、ニューヨーク情報をメインとしたブログです。誰かの人生にちょっとだけ色を足すようなブログになれたら。

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【読書】『バッタを倒しにアフリカへ』筆者の教養・遊びのバランスが最高だった

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日本に帰国中、人に会う時間以外の多くを読書にあて、1ヶ月で約20冊を読破した。

 

その中でも、友人のお勧めで読んだ『バッタを倒しにアフリカへ』が特に良かったので、紹介したいと思う。

 

『バッタを倒しにアフリカへ』のあらすじ

 バッタ被害を食い止めるため、バッタ博士は単身、モーリタニアへと旅立った。それが、修羅への道とも知らずに…。『孤独なバッタが群れるとき』の著者が贈る、科学冒険就職ノンフィクション!

 

感想

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まず、表紙のこのインパクトが相当大きい。なぜ緑色の服を着て、なぜ顔面まで緑なのか。ここから、ふざけているタイプの文章かな、と思わせられる。お笑いでいうところの出オチ感も半端ない

 

そこに畳み掛けるようにして目に入る、「前野ウルド浩太郎」という名前。芸名か何かか。

 

読み始めてすぐ、「バッタ博士」が自称ではないことに驚く。きちんと大学で学位を取得されて「博士」を名乗っているようだ。

 

さらに読み進めると「前野ウルド浩太郎」が、異国の地モーリタニアで研究所長に命名された名前であることに驚く。この本、驚かされることが次々起こるのである。

 

 

バッタは漢字で 「飛蝗」と書き 、虫の皇帝と称される。小学校の時に習った、そんな虫のことも、害虫以外滅多に出会わない現代に生きる我々は、とうに忘れている。おっと、ちょっと待って欲しい。なんと、バッタは「害虫にもなりえる」のである!そのため、博士である筆者は、フィールドワークによりその生体を突き止め、害虫被害防止に役立つ研究成果を認めてもらえるのである。バッタを愛しているけれど、害虫になるバッタを分析し、時には除虫剤で大量死している姿をも目撃しながら、研究に勤しむのである。なんと健気なんだろう。

 

かと思えば、歯磨きを行う専用の木の枝をふざけて「歯磨木」などと呼び、歯磨きに勤しむ様子も写真付きで記載されている。なお、その木は「 M a e r u a c r a s s i f o l i a 」と呼ばれ、成分には抗菌物質が含まれており、実際に虫歯予防になっているそうだ。こんな豆知識も随所に散りばめられている。「サバクトビバッタ」というバッタの種類なんて、この本に出会わなければ死ぬまで知らなかっただろう。

 

京都の白眉研究所に面接に行った際に、実際に白眉にして面接に臨む姿(突っ込まれた時のためにすぐ落とせるようシュミレーションもしたそう)など、体を張った芸を数多くこなしているところを見ると、かなり好感度が持てる人物である。

 

この本は、主に砂漠で繰り広げられるノンフィクションを中心としたお話だが、日本に帰国した際の研究者のリアルもまざまざと描写してある。論文や著書を出版しなければならないこと、出版できぬ者は消え去る運命にあり、「 P u b l i s h  o r  P e r i s h (出版せよ 、さもなくば消えよ ) 」などと 、研究者が抱えるプレッシャ ーを表した恐ろしい格言も存在するそうだ。そんな文章が出てくると、ああ作者はちゃんと研究者だったんだと思わされる。

 

読み終えた後、筆者の教養・遊びのバランスが抜群に最高なので、このような文章をかけるのだなぁと、嫉妬に近い気持ちになり、しかし充実した読後感を十分に満足した。

 

 

 私はこのところ、ノンフィクションばかり読んでいるが、最近読んだ中では、ぶっちぎりにおすすめ。ノンフィクションに興味がある方や、フィクション小説・ビジネス本に飽きてきた方も、騙されたと思って是非読んで見て欲しい。バッタに詳しくなる以外にも、筆者の生き方に勇気付けられること間違いなしである。

 

ノンフィクションでは、他に「笑いのカイブツ」もオススメ。